閻魔大王にもなるわさ 婚約指輪編
「ここに、あるよ。」
「ここに、しっかりあるから。」
鈴虫は自身の左胸に手を当て、優しく微笑んで松虫に言った。
「指輪があろうと、なかろうと、松虫と結婚したいと思った気持ちは、今
もここに変わらずにあるよ。 だから、あるのと同じ。」
でも、いざとなったらお金に替えられるからと言えば
「いざとなった時、本当に売るかい。他の物から売ってしのぐだろ。結局
売らないのなら、今なくても同じじゃん。」
でも、長男船虫が婚約指輪買うのが大変だったら、リメイクできるしと言えば
「船虫は、しっかり成長したよ。アイツは自分の力で、自分の金で指輪を
買えるじゃない。心配いらないから。よくここまで、育てたね。」
でもでもでも、罵ってくれなきゃ、私、おさまんないよー! と、半泣きになると、
「さあ、この話はこれでおしまい! さあ、夕飯、夕飯。」
笑顔で優しく、松虫の頭をポンポンしたのだ。
そう、あの頃の鈴虫は、大失敗の松虫を一切責めることはしなかった。
あの鈴虫は、どこに行ったんでしょうね。