不倫の果て 【ここまでイカレた鈴虫】
自宅に着き、トランクから荷物を出した。
買物袋の下から、長男船虫のリュックを見つけた。1-2か月前、研修に行くのになんかリュックはないかと、鈴虫が言ってきた。航海中で使っていない船虫のリュックを、松虫は差し出していた。
「あああ、鈴虫たら、船虫に返してないじゃん。」
松虫はそのリュックを持った。「⁈ 重い。」
リュックを、明るい居間へと運んだ。そして中を確かめた。
【コンドーム】
【ピンクのローター】
【絵具筆】
まだ外に居る鈴虫に、取り上げられては大変。
大事な証拠の品だ。
とにかく隠さなきゃ‼
買物の収納。夕飯の支度。もう、それどころではなくなったt。
リュックの存在を。そして中身がバレたと知るや、鈴虫は血相を変えて叫んだ。
「あのリュックは、団子虫のだ! 俺じゃない!」
あれまー‼、人に擦り付けますか。それも、息子に‼
研修で使うと、私が渡したこと。団子虫は、この手のリュックは使わないこと。
等々を言うと、弁の立つ鈴虫だが諦め、これは逆にチャンスとばかり
「もう、出て行く‼ やってらんない‼」
とわめき始めた。ここでも罪悪感なしだ。さすがとしか表現出来ない。
息子のリュックにこんな物を入れ、返さずにいた鈴虫‼ せめて、息子船虫に対してだけでも謝罪しろや。親だろが。信じられないぜ。
松虫はもう、引き留めはしなかった。
何処に行くのかと聞けば、松虫に片付けさせたあの実家という。やっぱね。
もう夜も遅いし、急に行くと年寄りは驚くから、電話してから行けと言った。
すると、鈴虫は豹変した。それは、未だかつて聞いた事がない。まるで別人だ。
「かあさん、うん、俺えー。今から、そっちに行くね。うん。泊まるよん。」
舌っ足らずな、甘えた猫なで声で話すのだ。さっきまで、リュックを渡せと脅した人物と全く別人。驚いたのなんの。
【二重人格⁈】
そう感じた。松虫は、鈴虫に受話器をよこすようにジェスチャーした。
きっと渡さないと思ったが、これがすんなり渡した。
「お母さんは、この人不倫しています。そっちに行っても決して入れないでく
ださい。お願いします‼」
すると、鈴虫は再び豹変した。鬼の形相で罪悪感とは無縁の発言をした。
「この女、騙しやがったな‼」
「絶対信用しない‼ 絶対信用しない‼」
どうですか?どう思いますう?
あの雪の日と同一人物ですよ。
騙したのは、鈴虫。
W不倫は、鈴虫。
信用できない人物は、鈴虫。
だからやりたい放題なんですよ。
女郎蜘蛛の毒は、強烈だ。ここまで人格を狂わすとは、、、。