不倫の果て 【ここまで腐った鈴虫】
荷造りをし終えた鈴虫は、車の鍵を返せと松虫に迫った。
鈴虫を引き留める気力は、もう前日ほどない。冷静な思考となるには、時間が必要とも思えた。しかし、親子の絆は別物だ。親子の仲も、鈴虫は捨てる気なのか?
いや、ありえる。ボイスレコーダーで親子の情愛を、バッサリ切って語っている。
この間の一部始終を、船虫は居間で聞いていた。一言も発せずに居た。
「ねえ、このオッサン一発殴って、目を覚まさせてやってよ。」
ふと、船虫に頼ってしまった。そうだ!船虫よ、何か言ってくれよと、すがった。
すると船虫は
「嫌だよ。」
と、小さく呟いた。それを聞いた鈴虫は
「だよな‼ このオバサン狂ってやがるよな。」
「人を縄で縛る気かよ。なっ、船虫。」
鈴虫は、味方を得たと歓喜の表情だ。
船虫は、下を向いて暗い表情まま。確かに「嫌だよ。」の声は震えていた。
今一度、出て行こうとする鈴虫を見た。ズボン左ポケットから、私の黄縞の財布が半身出ていた。その財布は、5000円、1000円のピン札ストック用だ。
「置いて行きなさいよ‼ それ、私の財布よ‼」
「なんだよ! これっぽっちの金‼」
黄縞財布を床に投げ捨てた。すると柱にセロテープで止めた2万円が入ったビニール袋に、手を伸ばした。
「それも、置いて行け! ここで暮らすならと思って置いた2万だ!」
「じゃ、俺はどうすりゃいいんだ‼ あ、叔母さんに貰おう。」
【はあ⁈ 叔母さんにたかるんかい】
鈴虫が持ち出そうとした黄縞財布と同じ場所に、赤縞財布も松虫は保管していた。
赤縞財布は、ピン札10000円保管用だ。しかし、その赤縞財布が半年以上前からなくなっていた。
急な出費で使ったのか?どこか違う所に仕舞ったのか?次男団子虫が取ったか?
いやいや、どれも違う。今回の鈴虫の行動から、犯人が判明したよ。
鈴虫よ、お前が使ったな。15万ぐらいはあったぞ。ここまで腐っていたか。