不倫の果て 【船虫とふたりになって】
鈴虫は出て行った。
松虫と船虫だけとなった。「あ、夕飯まだだったね。」
何を作り食べたか忘れたが、食後船虫に聞いてみた。
「なんで、殴って止めようとはしなかったの?」
すると船虫は、鋭い見解を語った。
「アイツ、相当イカレちまっているよ。狂ったな。」
「あんな奴、いない方がいいじゃん。」
「なんで、あんなヤツ、引き留めんのさ。」
「あんなの、引き留める価値ないじゃんか。」
「アイツ殴ったらよ、アイツ俺の事、傷害罪で訴えやがるぜ。」
「そしたら、俺の人生台無しじゃん。」
【ああ、船虫‼ 】
そうだ。その通りだ。船虫ごめんよ。ごめんよ。
あんたの手を、あんたの人生を汚すところだった。
ごめん。ごめんなさい。
そして、ありがとう。船虫がいてくれて本当に良かった。
食後船虫の前で、松虫は思いっきり泣いた。
そうだ。この時まで、松虫は泣いていない。どうすれば、どうしようかと頭も心もフルスロットルさせていた。どうしても軌道修正したかった。泣いている場合じゃない。私が泣いたところで、何も変わらないことは、明白だから泣くことを後回しにしていた。
次男団子虫は2018年4月から愛知県に就職。5月6月はディーラー研修で自宅に居たが、9月は居ない。長男船虫は航海士。3か月海上勤務、1ヶ月休暇で、丁度休暇中だった。
この日もそうだが、後に何度も船虫に助けられた。こんなに船虫に助けられるとは、正直想像していなかった。この子は、私が守らねばと思っていた。
それは鈴虫もそう考えていた。まだ店が安泰だった頃、
「船虫には、店の段ボール箱片付けでもさせてやりゃいいさ。」
なんて、のんきなことを言っていた。そんな船虫は、親なんか頼らず航海士。
片や鈴虫よ。W不倫して開き直り、人の金に手を付け、お次は叔母に金の無心かい。
見事なまでの、右肩上がりと右肩下がり。
私が眩しいと感じたあの鈴虫。
私が愛したあの鈴虫。
どこまで落ちれば、戻って来るのでしょうか。
いや、そもそもが幻だったのか。